NPO 法人尾瀬自然保護ネットワーク
―――――――目 次―――――――
オーバーユースがもたらした夢・・・・・・・・・1
福島側活動報告(第 5 回)・・・・・・・・・2-3
2018 笠ヶ岳植生調査ご報告・・・・・・・・3-5
尾瀬外来植物状況報告・・・・・・・・・・5-7
Vol.21.No.4 2019 年 2 月
事務局だより・・・・・・・・・・・・・・・8
オーバーユースがもたらした夢
そしていまの尾瀬
理事長 磯部 義孝
♫夏が来れば思い出す~、遥かな尾瀬遠い空~、
入山者の減少は山小屋や地元旅館、民宿には大き
その尾瀬にまた新しい動きが起こっている。
な痛手となる。観光産業で生計を立てる地元として
1986 年(昭和 61)第二次尾瀬ブーム時は、福島
は大変なことだと思う。しかしいつかはそうなるで
県が調べた数字によると、尾瀬の入山者数は福島県
あろうと、とうの昔からわかっていたはずだ。オー
側 53 万 5000 人、群馬県側 37 万人とあり合計 90
バーユース時の「黙っていても人が来る」時代を忘
万 5000 人に達していた。言わずと知れたオーバー
れられずいまに至っている。
ユース、過剰利用であった。
そうなる前に対策はいくつかあったはずだ。かつ
その後 1996 年(平成 8)は尾瀬の総入山者数 64
て尾瀬の自然を守る会の故内海広重代表は、大江湿
万とも 65 万とも言われた。前年(平成 7)に尾瀬
原を一周する、木道周遊コースの付け替えなどを提
保護財団の設立と重なり、マスコミ等がかつてない
言していた。そして尾瀬ヶ原は数字の「8 の字廻り」
ほど尾瀬情報を報道し
たことも一因であろう。
一度は尾瀬へ行って見
たいという、尾瀬にあ
こがれていた人々がど
っと、一気に尾瀬を目
指した。そのブームは
にし、少しでも湿原
に負荷をかけずに
尾瀬散策ができる
よう木道の付け替
えなど、長期にわた
る尾瀬ファンを作
っておくべきであ
平成 10 年ころまで続いたものの、このあたりを境
った。
として年ごとに減少傾向をたどり、現在は 30 万人
木道の付け替え工事は膨大な資金がかかること
前後で推移している。
は誰でもわかっている。そこで入山料徴収の提案を
尾瀬保護財団が設立(平成 7)された意図は、尾
すれば、尾瀬に人が来なくなるなどの理由で、地元
瀬を一括管理して自然保護全般と入山者の過剰利
や山小屋関係者から反対があり、これも出来ない。
用をなくすためであった。抑制を図るための財団設
かなり昔だが自然保護で「飯が食えるか」と怒鳴ら
立と平日の尾瀬訪問など、分散化アナウンスには
れたこともあった。しかし尾瀬という素晴らしい自
我々は大きな期待を寄せていた。しかしその期待は
然があったからこそ、今まで生計が成立ち、飯が食
大きく裏切られ、今では尾瀬の誘客に一役かってい
えたのではないだろうか。
るのが現状である。
今では入山者の減少に歯止めをかけようと必死
1
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になっている。日本人観光客の減少は尾瀬ばかりで
「御池古道を歩く」
はない。国立公園をはじめ全国の観光地や温泉スポ
快調に行われたシャトルバスでの解説の活動が
ットなど軒並み減少している。理由はいろいろある
ひと段落となり、さあこれからフィールドワーク。
と思う。一つは高齢化社会の突入もある。昭和、平
空は青いし紅葉も盛りですから、向かうはブナ平、
成初期の尾瀬ファンの高齢化と情報社会への変革
御池古道です。
が、次世代を担う若者離れを引き起こした。尾瀬に
女性陣 3 人は橅ミュージアムの渡邊館長作成の
行かずともインターネットですべて情報として入
案内図を片手にスモウトリ田代へ、男性陣は古道歩
手できお金を使わず尾瀬を満喫できる、そしてスマ
きや車待機の役割分担で、昼過ぎに御池をスタート
ホによる SNS 発信などは尾瀬に行かずとも、どこ
しました。
でも尾瀬情報を見聞きできると思い込み、ますます
御池古道とは、御池から七入までの約四キロの森
尾瀬離れを引き起こしているのではないか。
の中の道で、標高差 410m。遠方との往来に使われ
来年開催予定の 2020 東京オリンピックまでに国
ていた類とは異なり、狩猟や山菜採り、開拓などの
内の国立公園に 1000 万人を呼び込む作戦がある。
ために、村の人達が歩いた道。尾瀬周辺で現存して
その一部でも尾瀬に来てほしいと地元は必至であ
いるのはここだけです。
る。しかし最近のバスツアーで来る観光客は、すべ
スモウトリ田代から小沼田代を過ぎて、ブナの巨
てとは言わぬが尾瀬を汚し、騒ぎまくり土産すら買
木の間をぐんぐん下れば、次は休憩場所が設置され
わずに帰ってしまう。特にどこの国と言えないが、
ているウサギ田代。夏の間小さな花々が咲き競って
こんな人たちでも来てほしいのか疑問である。尾瀬
いた湿原は、薄茶一色の枯野となり、休んでいる人
に来て尾瀬を楽しみ、村に泊って・・・・「また来るね」。
の姿はありません。
そんな尾瀬ファンを作って欲しい。
ここからが本番と、バス道路に出る手前で階段を
のぼり、積もった落ち葉の上を歩いていくと、その
感触が古道を行く実感となって体に伝わってきま
した。
前に後ろに、輝く森は限りなく続いていきます。
先を行く小林さん、伊藤さんは、木立の向こうで黄
色に染まり、すれちがっていく若いカップルの笑顔
入山料を払ってでも何度でも来たくなる尾瀬、そん
は赤みがかり、どちらの姿もあたりの風景のなかに
な夢をみんなで見ませんか。
ごく自然に溶け込んでいます。
未来の尾瀬のため、尾瀬を想うばかりです。
幅の広い道をガサガサと踏み音にぎやかに進み
暴言多謝につきお許しください。
明るい斜面を一気に下ると、早くも前方に、モーカ
■福島側 (第5回)活動報告
ケの滝が見えてきました。時計を覗けば案内図どお
りウサギ田代から 30 分経過です。ブナ平をひそや
指導員 坂本 敏子
かに流れ下ったモーカケ沢の水が 30 メートル近く
日時:平成 30 年 10 月 6 日(土)~7 日(日)
ある崖を、裾を広げながら落ちていく・・・いかに
6日午前7時晴れ、絶好の尾瀬日和となった。午
も美しい女性の立ち姿には思わずため息です。
前9時、御池駐車場 212 台思ったより少なく、台風
モーカケの滝駐車場で合流、遅い昼食を摂ると、
の影響か・・・
再び二班に分かれ、それぞれ七入に向かいました。
本日の添乗解説と入山指導 285 名。
滝を過ぎたあたりから、道の様子が一変しました。
尾根下りとなったのです。それでも地面は安定感抜
群で、私たちはコースタイムの 35 分をかなり短縮
2
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し、旧沼田街道分岐に到着しました。
イト、応急処置用の医薬品などです。
昭和 38 年の七入~御池間バス道路完成後、地形
○調査地 2 ヶ所
図、登山地図から消えてしまった。そして今、村の
・小笠南面(標高 1950m):岩盤が大きく傾斜は
古老達の記憶からも消えようとしている・・・
笠ヶ岳東肩より緩く安定した地点です。昨年との違
しかし、そのなつかしい古道は、人に寄り添う明
いは、植物が大きく育ち高密度の調査地点となって
るい森の道として復活しました。
いました。今年の雪解けは例年並みでしたが、植生
やがて訪れる厳寒の季節を越え、新緑の春、木蔭
の繁茂状態は記録的な暑さが続いたためと考えら
の夏、そしてまた廻りくる紅葉の秋を想うと、今か
れます。
ら心は躍ります。
・笠ヶ岳東肩(標高 2000m):山頂直下の斜面であ
り、登山道の上部法面から表層土壌の下方移動が激
(参加者14名/五十音順)
しく、一部の登山道が埋まってしまうほど土壌が流
磯部義孝、伊藤アケミ、伊藤広志、伊藤佳美、
動している調査地点です。
小林ミヨ、坂本敏子、佐久間治光、佐藤秀雄、
○調査方法
円谷光行、刀 光夫、鍋山智之、永島 勲、
1m×1mの方形区法(コドラート法)を用いて植
初谷 博、横田 隆、
生の種数を調べます。被度(数量)や植生種名から
との関係を考えることを目的としています。また過
■2018 年笠ヶ岳植生調査の報告
去データと比較しながら、土壌流動や植生の遷移に
ついても検討材料にします。
優占種を求め、その種の特徴や環境条件、土壌条件
群馬側担当理事 小鮒 守
理事 大山昌克
○2018年調査
―確認された植生種数―
定点植生調査を継続している笠ヶ岳は、標高
調査地は斜度30~45度の法面であり、積雪層全体
2056m、至仏山の南側に位置する山です。
がグライドすると想定される箇所です。表層土壌の
鳩待峠から至仏山に向かい、オヤマ沢田代から分
下方移動が極めて激しい個所ですが、例年14~18
岐した山道を進み、悪沢岳、小笠を経由して調査地
種の植生が確認されている雪田植生地です。2018
点まで約 5 時間の道のり(往復 14Km)であり、
年は小笠南面18種、笠ヶ岳東肩で16種確認しました。
またアップダウンが続く尾瀬の中ではかなりタフ
調査地点 生息本数 種数
科-属
なコースです。
経由する至仏山東面道から悪沢岳、笠ヶ岳間は 7
笠ヶ岳東肩
月上旬まで残雪があり、ぬかるみ状態のため慎重な
小笠南面
490
362
18種
16種
15科-18属
13科-16属
歩行を余儀なくされます。ハイカーには敬遠される
―優占種(上位3種)―
道のため、人とすれ違うことは滅多にない山道です。
2018年調査では小笠南面、笠ヶ岳東肩で確認され
2018 年は 7 名の指導員とともに 2 ヶ所の定点調
た植生数の上位3種は、まったく同種でした。
査地①小笠南面(標高 1950m)②笠ヶ岳東肩(標
・小笠南面(上位3種で65.7%)
高 2000m)に向かうため早朝 7 時に行動を開始し
ました。
調査に必要な道具は、デジカメ、野 帳( 雑 多 な
記 録 用 の ノ ー ト )、 筆 記 用 具 、 調査票、方形区
法(コドラート法)調査のメジャー、昼食、水、ラ
種名
%
1位 キンコウカ
2位 ヒメノガリヤス
3位 イワイチョウ
32.7
24.5
8.6
3
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・笠ヶ岳東肩(上位3種で74%)
ブナの樹木の成り年、不なり年と同じく、多くの
種名
%
植物にも程度の差はあれ「豊凶」があり、興味深い
1位 キンコウカ
2位 ヒメノガリヤス
3位 イワイチョウ
49.7
13.3
11.7
―2018年新たに確認された植生種―
植物の個性や生活史ともいえます。尾瀬に隣接する
ものの、国立公園の外側に位置していますが、最も
「尾瀬らしい」箇所と言えるところです。それは、
継続調査(1m×1mの定点)で、確認できた植生種
は累計小笠南面32種、笠ヶ岳東肩39種におよびます
過去5回の調査で確認できた植生種は平均小笠南
(6回の調査累計)。尾瀬同様に極めて多様性の高
面では16種、笠ヶ岳東肩14種でした。2018年に生息
い雪田植生群落です。この笠ヶ岳全体も尾瀬国立公
本数は少量ながら、新たにそれぞれ2種ずつが確認
園内に含め、次世代に残すべきエリアと改めて感じ
されました。
ます。
調査地点
種名
数量
小笠南面調査中 撮影2018/8/11
小笠南面
マルバウスゴ
ヒメスギラン
ムラサキタカネアオヤギソウ
笠ヶ岳東肩
ミヤマトウキ
○過去データと比較した検証
1
1
5
2
①2つの調査枠内(1m×1m)で確認された植生は、
「1属-1種」であり、同属の2種以上で生息した植生
はなかった。
している。
②2つの調査地点の優占種上位にあったコイワカガ
ミ(イワウメ科-イワカガミ属)の数量が経年減少
③小笠南面の最優占種は、2年連続キンコウカ(キ
ンコウ科-キンコウカ属)であり、占有率は33%で
あった。2017年より確認されたキンコウカは、それ
以前の4回の調査では未確認(ゼロ)であった。
④笠ヶ岳東肩の最優占種は、3年連続キンコウカ(キ
ンコウ科-キンコウカ属)であり、占有率は約50%
であった。過去には少数ながら確認されていたが、
小笠調査点と同じく2017年より爆発的に増加して
ベニヒカゲが乱舞(準絶滅危惧種)開張 45mm
⑤笠ヶ岳東肩のタテヤマリンドウ(リンドウ科-リ
チョウ目タテハチョウ科 撮影2018/8/11
ンドウ属)は、2015年以降未確認(ゼロ)が続いて
※なお更新、追加された調査データは、紙面の都合
⑥優占種の上位5種が占める割合は、小笠南面77%、
上割愛しますが、当会HP上に登録しますのでご覧
笠ヶ岳東肩では84%であった。例年と同じく数種に
ください。http://www.oze-net.com/
よる寡占状態となっている。
いる。
いる。
4
NPO 法人尾瀬自然保護ネットワーク
■尾瀬の外来植物状況について
シです。昭和 20 年代後半に山小屋が栽培していた
群馬側担当理事 小鮒 守
ものが逸失したと言われるオランダガラシは、国指
理事 大山昌克
定-生態系被害防止外来種です。オランダガラシは
2018 年特別保護地区内の群馬側の 2 つの拠点中
切れ藻によって分布域を広げるため、生息面積は顕
心に、外来植生の調査を行いました。確認できた外
著に拡大、一部の湿原では我が物顔で咲き誇ってい
来種を一覧としてまとめましたのでご報告します。
ます。山小屋の周辺から勢力を拡大、今では湿原の
同年 1 月に第 4 次尾瀬学術調査団より記者会見が
奥深くまで入り込んでいる状態です。
ありました。その内容は尾瀬山小屋周辺の外来植生
○2018 確認された外来種(帰=帰化植物)
侵入に対する、深刻な懸念状況を伝える会見でした。
全国、地方紙ともども大きく報道されましたのでご
存知の方も多いと思いますが、新聞の抜粋を記して
おきます。
<尾瀬の外来植物広がる-第4次学術調査で
「在来種絶滅の恐れ」>
尾瀬国立公園の特別保護地区内に、ヨーロッ
パ原産の多年草「コテングクワガタ」などの外
来植物が広がっていることが、今年度始まった
第4次尾瀬総合学術調査で分かった。10 日、東
京都内で開かれた同調査の報告会で、県立自然
史博物館の大森威宏学芸員が報告した。
大森学芸員によると、コテングクワガタは数
年前から保護地区内で発見されていたが、今回
の調査で全ての山小屋周辺で生育しているのが
確認された。株数は在来種であるテングクワガ
○環境省「生態系被害防止外来種」指定種
タの 10 倍以上あり、一部では二つの種が交雑し
2016 年 3 月環境省は、侵略性が高く、生態系に
ていた。コテングクワガタの場合、ヘリコプタ
被害を及ぼす恐れの大きい「生態系被害防止外来種
ーの基地がある大清水(片品村)や御池(福島
リスト」を公表、植物は 200 種を指定しました。
県檜枝岐村)に群落があった。大森学芸員は「山
このリストは「2020 年までに侵略的外来種とそ
小屋への物資や工事用資材搬送の際に運び込ま
の定着経路を特定し、優先度の高い種を制御・根絶
れた可能性が高い」と指摘している。大森学芸
すること」が、生物多様性条約第 10 回締約国会議
員は「外来種と混じり合うことで、在来の純粋
で採択(愛知目標)され、国内では同年 9 月に閣議
種が絶滅する恐れがある」と話している。
決定された「生物多様性国家戦略 2012-2020」に基
2018/1/11-読売新聞抜粋
づくものです。
侵略性の高い外来種の選定は、専門家によるワー
キングチームにより整理され、『外来種についての
国民の関心と理解を高め様々な主体に適切な行動
尾瀬内の植生観察時に、山小屋、休憩所、木道周
を呼びかけることで、外来種対策の進展を図ること
辺に侵入してきた「外来種」も併せて目視による確
を目的』として公表しました。
認調査を継続しています。
しかしながら尾瀬を見る限り、外来植生が指定さ
尾瀬侵入外来種の代表格の一つは、オランダガラ
れ、生態系被害防止外来種が、国立公園内の特別保
○調査内容
5
帰エゾノギシギシ帰エゾノギシギシオオバコオオバコオトコヨモギ帰オランダガラシ帰クサイ帰クサイゲンノショウコゲンノショウコ帰シロツメクサ帰コテングクワガタスギナコハコベ帰セイヨウタンポポ帰シロツメクサドクダミスギナ帰ノボロギク帰セイヨウタンポポノミノフスマ帰ヒメジョン帰ハルサキヤマガラシベニバナゲンノショウコ帰ハルジオンミヤマトウバナ帰ヒメジョンベニバナゲンノショウコミヤマトウバナ帰ムラサキツメクサヨモギ帰=帰化種種名は五十音順山の鼻(13種)鳩待峠(18種)